本紙窓欄に先ごろ「もうじきたべられるぼく」という絵本を小学1年生に読み聞かせした女性の投稿が載った。「運命」を知った子牛がリュックサックを背負い、列車に乗って、牧場へ母牛に会いに行く

▼子牛は最後につぶやく。「せめて/ぼくをたべた人が/自分のいのちを/大切にしてくれたら/いいな」。子どもたちは静まりかえり、本を見つめたという

▼育てた豚を自ら食肉処理し、食べるまでを記録した本もある。豚は、ある国では大切に育てられ、特別な機会にだけ食べられる。一方、宗教によっては「不浄な生き物」として食することを禁じている。本の著者でアーティストの八島良子さんは、豚という存在を「この身で受け止めてみたい」と考え、食べることを前提に飼い始めた

▼一緒に走り回り、1枚の毛布にくるまり、排せつ物を片付けた。1年後には210キロに成長した。命をいただくその時、もし嫌がるそぶりを見せたら、自然死するまで共に暮らそうと思い悩んだ末に、ナイフを握った

▼頰肉を七輪で焼いて頰張ると脂の甘みが口に広がり、自然に笑みがあふれた。「悲しくて食べられない」という繊細さがみじんもない自分にあきれた、という。著書「メメント・モモ」で、胸の内を克明につづった

▼家畜に関する考えは人それぞれだろう。ただ多くの場合、人は別の命を頼りに生きている。絵本とドキュメンタリーは、そんな現実を改めて教えてくれた。スーパーで肉のパックに手を伸ばす時には思い出したい。

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