速やかに市民の退避を実現させ、停戦に導く。粘り強くトップ外交を続け、国連の役割をしっかり果たしてもらいたい。
国連のグテレス事務総長が、モスクワでロシアのプーチン大統領と会談した。ゼレンスキー大統領との会談にウクライナも訪れた。
ロシアがウクライナに侵攻を始めて以来、グテレス氏の両国訪問は初めてだ。
プーチン氏との会談後、国連はウクライナ南東部マリウポリの製鉄所内にとどまる多数の市民の退避について、国連と赤十字国際委員会(ICRC)が関与することで原則合意したと発表した。
会談では、ロシア軍が制圧したと主張するマリウポリから市民を一刻も早く退避させることが喫緊の課題だった。
今回の合意は、その意味で一定の前進があったとみていい。
だが、退避が実現するかどうかは見通せない。これまでも「人道回廊」は設置されたが、ウクライナ側が安全を確認できないとして、機能しなかった。
マリウポリは水道や電気が使えず、食料や医薬品の搬入も途絶え、人道危機は極限状態だ。
国連は、製鉄所内だけでなく、他の地域でも市民の退避ができるよう全力を挙げてもらいたい。
グテレス氏はこれまでロシアに対する批判を重ねてきたが、自ら調停の場に立つことはなかった。
訪ロに先立ち、国連の元高官200人以上がグテレス氏宛てに連名で異例の書簡を送り、積極的な行動を求めていた。
侵攻開始から既に2カ月が過ぎた中で、国連トップの仲介は遅過ぎたのではないか。
国際紛争の解決を担う国連安全保障理事会は、ロシアが常任理事国として拒否権を握っており、有効な対策を打ち出せずにきた。
ゼレンスキー氏は「安保理は役割を果たしていない」と厳しく批判している。
国連の加盟国も危機感を募らせている。国連総会は、安保理の常任理事国が拒否権を行使した場合、会合を開いて理由の説明を求める決議を採択した。
拒否権行使の抑止や透明性の向上につなげる狙いがある。国連改革を着実に進めていきたい。
戦況は一段と深刻さを増している。ウクライナ隣国のモルドバ東部では、駐留するロシア軍が戦闘態勢に入り、越境してウクライナに侵攻するとの見方が出ている。
プーチン氏は2014年に強制編入したクリミア半島の主権をウクライナが認めない限り停戦に応じる考えはないとしている。核兵器の使用も辞さない姿勢だ。
これに対し、欧米はウクライナに大量の武器を供与し、軍事面での支援を強めている。
戦禍が広がるばかりでは局面の打開は難しい。国連は外交の力で停戦に導いてほしい。
