少数与党は野党をてんびんにかけた個別協議に終始した。野党は手柄争いを演じ、一体感を欠いた。衆院審議は政策を吟味する「熟議」とは程遠く、国民に議論が見えなかったことは残念だ。
2025年度予算案は、衆院本会議で自民、公明、日本維新の会などの賛成多数で可決し、衆院を通過した。5日から参院での審議が始まっている。
予算案は衆院で1996年以来29年ぶりに修正され、55年以来70年ぶりの減額となった。
少数与党の石破政権は、教育無償化や、所得税が生じる「年収103万円の壁」見直しなどで野党の求めに応じた。政策ごとに手を組む部分連合の手法で、難交渉をどうにかまとめた形ではある。
当初案で積んだ1兆円の予備費を7500億円に減らすなどして、歳出(支出)総額を当初案から3437億円減らした。
とはいえ、115兆1978億円と当初予算ベースで過去最大には変わらず、歳出膨張に歯止めはかかっていない。
見逃せないのは、高校授業料無償化を求める維新などとの協議が難航した結果、衆院予算委員会での修正案の審議がわずか9時間と、92時間に及んだ予算委全体の1割にも満たなかった点である。
協議は政党の実務者レベルで行われ、公開の場ではなかっただけに、予算委で国民に伝わる丁寧な審議が必要だったはずだ。
高校授業料の無償化で政府は1064億円を計上した。無償化には恒久的な財源確保が不可欠なため、予算案審議の中で不要不急な項目の削減を図り、生まれた財源を振り向けるべきだった。
しかし、そうした議論にはならず、石破茂首相が強い指導力を発揮する場面も見られなかった。矢継ぎ早な制度変更の割に、説明不足は否めない。
与党だけでなく、無償化や年収の壁引き上げといった公約の実現を求めながら、財源論を後回しにした野党にも責任はあるだろう。
年収の壁では、103万円から160万円に引き上げ、年収850万円を上限に減税措置を拡充することで維新と一致した。178万円への引き上げを主張した国民民主党とは合意しなかった。
160万円の金額や所得制限の理由は曖昧で、制度設計が複雑化したことには課題が残る。
医療費の支払いを抑える「高額療養費制度」の利用者負担の上限引き上げでは、患者団体との意見交換を踏まえて方針の一部を修正したものの、立憲民主党は全面凍結を訴えている。
与党が過半数を握る参院では与党が優位だ。しかし首相は「参院で政府として謙虚に真摯(しんし)に取り組んでいく」と述べている。
参院では与野党とも「良識の府」の権能を発揮し、国民が納得のいく熟議を交わしてほしい。