卒業式を終えたばかりの体育館で最後のホームルームが始まると、あったかくて優しい時間が流れた。わずか19人の卒業生が恩師と別れの言葉を交わす。握手し、ハグをし、涙が頰を伝う。教職員もこらえきれない。今月末で閉校する旧松之山町(十日町市)の十日町高校松之山分校から、最後の在校生が巣立った
▼「お互いがキャラクターを知り合っているから、おとなしい子にも居場所があり役割がある」。担任教諭の名地智子さん(52)は教え子を誇らしげに語る
▼入学時には人との距離の取り方やコミュニケーションが得意でない生徒も少なくなかったというが、一緒に笑い合える仲間と松之山の自然に囲まれ、頼もしく成長した
▼「手放すのが惜しい。本当にさみしい」と送り出してくれる担任らと出会い、大粒の涙と笑顔で終えられた学校生活は、きっと人生の支えになる。それは「日本一面倒見の良い学校」を掲げた松之山分校が培った伝統なのだろう
▼分校は松之山の高校を意味する「松高」の愛称で親しまれ、80年近くにわたり地域に大切にされてきた。過去に閉校や定時制移行の計画が出るたびに地元が押し返してきたが、社会の形を変え得る人口減少にはあらがえなかった
▼今春の県立高入試では志願者が20人未満の学校が7校ある。高校数は10年後に現在の86校が64校に減るともされている。学校規模の適正化は否定できないけれど、合理性だけでは計れない価値も心に留めておきたい。雪深い地の分校の記憶とともに。