国内の分断を全くいとわず、対外的には米国第一を先鋭化した内向きな演説だった。どう喝外交を展開し、多国間主義を軽視していては、米国が戦後築き上げた国際社会の秩序が崩壊へと進むことが危惧される。

 トランプ米大統領は、上下両院合同会議で2期目の施政方針演説を行った。

 目立ったのは自画自賛とバイデン前大統領ら民主党への批判だ。

 トランプ氏は就任以来「43日間で、ほとんどの政権が4年や8年で達成した以上のことを成し遂げた」とし、「米国の黄金時代は始まったばかりだ」と強調した。

 バイデン氏を史上最悪の大統領とし、「不法移民の流入を招き、卵の価格を制御不能にした」などと痛烈にこき下ろした。

 施政方針演説は、大統領が自らの理念や考えを国民に説明し、政策実行に向け議会に協力を求める目的がある。

 しかしトランプ氏は、前政権を非難し、「多様性という暴政に終止符を打つ」などと、自身の支持基盤が求める保守的な政策を誇示するばかりだった。

 これでは大統領選の支持者向けの演説と同じだ。一国のリーダーとして、対立をあおるのではなくて、国民の融和を図るべきではなかったか。

 議場では、共和党議員が熱狂的に喝采を送った一方で、民主党議員は押し黙り、次々と退出した。

 保守化を進めるトランプ氏の強引な手法に危うさを感じる米国民は増えている。社会の分断が一層深まることが心配だ。

 関税発動については、多少の混乱はあるとしながらも、製造業の国内回帰で「米国は再び豊かになる」と正当化し、国内産業保護や雇用創出につながる明るい未来を描いてみせた。来月2日に相互関税を発動する方針も示した。

 既に中国やカナダは報復関税を課すと発表している。対立が激しくなれば、世界経済の不安材料となる。米国内でも、さらなる物価高につながる恐れがある。

 温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定への負担金を「ばかげたグリーン詐欺」と述べ、離脱を表明した。世界保健機関(WHO)や国連人権理事会からの脱退にも言及した。

 国際協調に背を向けた動きだ。世界を導く大国としての威信と規範を放棄したに等しい。

 ロシアのウクライナ侵攻では、終結に向け取り組むと宣言したものの、具体的手法は示さず、ロシア寄りの和平案を進めるとの懸念が依然消えない。ロシアへの接近は自由主義陣営への「究極の裏切り」との指摘もある。

 トランプ氏の極端な自国優先主義は、目の前の課題にとらわれすぎており、国益につながるか甚だ疑問だ。国際社会からの信頼も失いかねない。