胸の飾りが特別な日であることを示している。卒業式帰りの女子生徒の一団と擦れ違った。声高な語らいはやむ気配がない。笑顔と涙の喧噪(けんそう)の後で一人そっとアルバムを開き、思い出に浸るのだろうか

▼全日本学校アルバム印刷組合が2001年に「卒業アルバム」というタイトルの本を発行した。各界の著名人がアルバムへの思いをつづっている。読み進めていくうちに引き込まれた

▼スポーツライターの増田明美さんは卒業アルバムを「青春のオルゴール」と例えた。開くと仲間や先生の声が聞こえてくる。時を忘れてその音に浸り、思い出を抱きしめたい気持ちになる。共感する人は多かろう

▼アルバムは時代も映す。12歳だった武田鉄矢少年のモノクロの集合写真を見ると、前列の子はみな裸足だった。「その一枚にありありと戦後の貧しさが映り込んでいる」とは武田さんの述懐だ

▼令和の卒業アルバムは多様化が進む。デジタルアルバムが普及し始め、機能性が大きく向上した。スマートフォンで内容を確認できるようにもなった。その一方で、個人情報の保護や教員の負担軽減のため、文集を載せるのを取りやめる動きもある

▼時折見返しては過去を顧みる。わが身を振り返っても、一人でアルバムを繰りながら心のページもめくり、身が引き締まるように感じたことがあった。そのうち、指一本で心のページを開くのが主流になるのか。悲しいことがあると皮の表紙を開いてきた世代にとってはその「軽さ」が何とも味気ない。

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