新潟高校出身の作家、映画監督である森達也さんが、捨てられていた子猫と暮らし始めたという話が、少し前の本紙に載っていた。1956年生まれの森さんはことし69歳。猫は15年くらい生きる。1週間ほど考えた後、飼い主に名乗りを上げたという
▼わが家も、動物愛護センターから子猫を迎えたばかり。飼育者の年齢制限が65歳と聞いて、少しでも若いうちにと申し込んだ
▼昭和のころは、近所で生まれた猫をもらうのが一般的だった。好物だというかつお節の持参品付きである。肉球が黒い猫は器用でネズミをよく捕ると言われ、人気があった
▼近年は、行政や民間の保護団体を通じて迎える形が定着している。ホームページにある譲渡対象猫の写真を見て、キジトラの雌を選んだ。額にM字の模様がある。センターで講習を受け、ガラス戸越しにお見合いをした。こちらが年齢高めのせいか「終生飼育をお願いしますね」という担当者の口調が熱心だったような
▼自分が老いて、面倒を見られなくなったら。そう考えて飼うのを諦める中高年は少なくない。賢明な判断だとは思う。でも人生後半だからこそ、ペットのぬくもりが必要なことだってあるのでは。わが家は猫好きな親類と話し合い、誰かが病気になったら猫を引き受ける約束をした
▼子猫は元気に駆け回っている。先日は、花店で買ってきた桜の枝を不思議そうに眺めていた。「春になると、外にも桜が咲くよ」。そう話し掛けたら「クシュン」と小さなくしゃみをした。
