議会が調査を重ね、導き出した結論だ。兵庫県知事は真摯(しんし)に受け止めて反省し、混乱や分断の解消に全力を挙げるべきだ。

 斎藤元彦兵庫県知事の疑惑告発文書問題で、県議会調査特別委員会(百条委)の報告書が議会で了承された。

 報告書は、当時の県民局長が配ったパワハラなどの疑惑告発文書について「一定の事実が確認された」と結論づけた。

 疑惑のうち、斎藤氏の職員に対する強い𠮟責(しっせき)などは「パワハラと言っても過言ではない不適切なものだった」と断じた。特産品などの贈答品受領については「『おねだり』との臆測を呼んだことは否定できない」とした。

 注目されるのは、県が文書を公益通報と扱わずに告発者を特定し、処分するなどした対応について「公益通報者保護法違反の可能性が高い」と指弾したことだ。

 県の対応の違法性はかねて識者らによって指摘されていた。

 報告書では、当時の総務部長が元県民局長のプライバシー情報を複数の議員に見せたことが明らかになったとし、「告発者をおとしめることで文書の信頼性を毀損(きそん)しようとしたこともうかがわれる」と非難した。

 通報者保護制度の根幹を揺るがしかねない行いで、許されない。

 残念なのは、斎藤氏に百条委の報告を受け入れる姿勢が見られないことだ。

 斎藤氏はこれまでパワハラについて「業務上必要な範囲で厳しく注意、指導したことはあったが、ハラスメントになるかは司法の判断だ」とし、告発文書に関しては「誹謗(ひぼう)中傷性が高く、真実相当性がない」と主張してきた。

 そうした主張を一部否定した百条委報告に対して斎藤氏は記者会見で「一つの見解」と述べ、従来の主張を繰り返した。

 11月の出直し知事選で再選したとはいえ、それで問題が不問になったわけではない。行政のチェック機関である議会の意思を無視することは民主主義を否定することにもなる。

 兵庫県の混乱は1年に及んでいる。元県民局長は死亡し、文書問題を厳しく追及した県議はネット上の中傷を理由に議員辞職した後に亡くなった。

 出直し知事選での公選法違反疑惑も浮上し、関わったPR会社の関係先が家宅捜索を受けた。

 元県民局長の私的情報や百条委での非公開情報の漏えい問題なども発覚し、日本維新の会の県議3人が党の処分を受けた。

 真偽不明な情報や誹謗中傷が交流サイト(SNS)上にあふれる状況は今も続き、県民の分断をもたらしている。

 地方自治で大きな権限を持つ知事が公益通報を理解し、過去の言動を省みる姿勢を示さなければ、風通しの良い県政は実現しない。