米国との貿易摩擦の激化に備え、内需拡大を強化するとした習近平指導部の手腕が注目される。そうした中で、歯止めのかからない軍備増強が、経済成長の足かせになる恐れはないのか、疑問だ。
中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)は、2025年の国内総生産(GDP)成長率目標を3年連続で「5・0%前後」に設定した政府活動報告や、過去最高の国防費を盛り込んだ25年予算案を採択・承認した。
注目したいのは、今年の重要課題の筆頭に内需拡大を据え、前年並みの経済成長を維持する方針を示したことだ。
トランプ米大統領は今月に入り、対中関税を20%へ引き上げた。これに対抗して中国は、米国から輸入する農水産物に最大15%の関税を上乗せした。
米中間で報復連鎖の様相が強まっている。貿易摩擦により外需頼みの経済成長が見込めず、内需による成長を図るのは当然だろう。
とはいえ、中国は不動産不況に苦しんでいる。24年は前年比5・0%の経済成長率を達成したものの、輸出拡大に頼った側面が大きい。消費刺激策として、当局は利下げや積極的な財政出動で景気を支える狙いだ。
経済の悪化により若者の失業率が高止まりし、社会の不安定化の一因とされている。日本人が襲われた事件など凶悪犯罪も相次いで起きている。
対策に治安維持強化の方針を示したことは理解できるが、監視が強まり、市民への締め付けが一層厳しくなることが懸念される。
失業などで社会に不満を持つ人々を「犯罪予備軍」と見なして洗い出すよりも、長期失業などで就職が厳しい人への支援を強め、社会の安定化を図るべきだ。
気がかりなのは、国防費予算が前年比7・2%増となり、4年連続7%を超えたことだ。習指導部は、米中ロ3カ国の軍縮協議を提唱するトランプ氏に耳を貸さず、軍拡路線を鮮明にした。
国防費は1兆7846億元(約36兆1千億円)で、日本の防衛費の4倍超となる。装備の調達目標などには触れておらず、さらに膨らむ可能性がある。
米国防総省は、中国が保有する運用可能な核弾頭数が24年半ば時点で600発以上と推定したほか、「世界最大の海軍」を有していると指摘している。
国防力の増強が、台湾海峡や東アジアの緊張を高めることにならないか、注視せねばならない。
独立派と見なす台湾の民主進歩党政権への圧力は続いている。一方、全人代では台湾との交流促進も強調した。民進党とも対話へと踏み出してもらいたい。
米国の自国第一主義に対抗し、国際協調を重視する姿勢も示した。世界の平和と安定に向け、大国として役割を果たしてほしい。