冷たい雨が降る平日だったけれど、続々と訪れる人でホールはひとしきりにぎわった。ランチセットが600円。この日は塩サバ焼き、マダラ卵と糸こんのうま煮、マカロニサラダにスイーツが添えられた
▼障害のある人が通う村上市の就労支援施設「すずかけ」が、施設外の人も利用できる月1回の食堂を開くようになって1年になる。ホテルや飲食店で働く現役の料理人らが無償で腕を振るう
▼ボランティアの中心は、近くで農業法人を営む髙野貞昭さん(55)だ。施設側が、昼食を弁当に変えたことで使わなくなった厨房(ちゅうぼう)を利活用できないか相談したところ、知人の精鋭を集めてくれた。せっかくだからと地域に扉を開くと、思いがけないスイッチが入った
▼外部と交流の乏しかった通所者が、毎月お知らせの紙を地域に配って回るようになった。当日は早々に食事を済ませて、ホール係になる通所者が現れた。「お茶どうぞ」「おいしいですか」。何げない声かけをする。玄関で一般客を出迎えて見送る役割もできた。他者との接点がぐんと広がった
▼毎回100食前後が提供される。常連客もできた。初めて障害者施設に入ったという人も多い。食堂開設前は「施設脇をただ通り過ぎるだけだった」という髙野さんも、今では通所者の心強い理解者になってくれた
▼「地域交流を進めますという発想ありきだったら、恐らくこうはならなかった」と施設長は目を細める。肩肘張らないおいしいご飯が、施設と地域の縁を取り持っている。