あきれて物が言えないとはこのことだ。「政治とカネ」が国会で議論されているさなかの軽率な行動は、政治不信を一層高める。首相は説明を尽くし、政治的責任を果たさなければならない。

 石破茂首相が3日に公邸で開いた自民党衆院1期生15人との会食に際し、首相事務所が土産名目で1人当たり10万円分の商品券を配っていたことが明らかになった。

 首相は14日の参院予算委員会などで、私費で商品券を配布したと説明した上で政治資金規正法と公選法に抵触しないと強調した。

 配布の趣旨については「ポケットマネーから慰労のつもりで渡した。政治活動に関する寄付では全くない」と述べた。

 政治活動に関わる寄付ではないため政治資金規正法に抵触せず、参加議員は首相の選挙区の有権者ではないため公選法にも触れないという理屈だ。

 果たしてこの説明でどれだけの国民が納得するだろうか。規正法に抵触する可能性があると指摘する識者もいる。

 派閥裏金事件で「政治とカネ」への批判は高まっている。国会では企業・団体献金の在り方などが審議されている。そうした中での商品券配布はあまりに軽率だ。

 首相はカネを巡る問題を厳しく指弾してきたことでも知られる。クリーンなイメージが、支持されてきた理由の一つでもある。

 9日にあった自民党大会では「国民が政治を信じていないとひしひしと感じる」と語っていた。

 仮に規正法や公選法に触れないとしても、政治的、道義的な責任はある。猛省し、国民に丁寧な説明をしなければならない。

 驚くのは、手土産が商品券10万円という感覚だ。高額に過ぎる。総額では百数十万円に上るとみられる。参院予算委で首相は過去に10回程度、自民議員に商品券を配布したことがあると説明した。

 世間の感覚からかけ離れた永田町の常識が、政治不信の根底にあることを忘れてはならない。

 今回の問題を受け野党は「一種の買収だ」「首相を続けるのは困難」と一斉に批判している。

 深刻なのは、自民内の一部から上がっていた首相交代論がさらに広がる可能性があることだ。

 首相の指導力に関しては、異例の3度の方針転換を行った高額療養費制度の見直しを巡り、判断の遅さや迷走ぶりを批判する声が上がっている。

 少数与党で厳しい国会運営を迫られている中、予算案の再修正など国会審議に影響することは必至の情勢だ。

 政権基盤、党内基盤が脆弱(ぜいじゃく)な首相にとっては正念場となる。

 トランプ米大統領による関税強化への対応など、先送りできない課題は山積している。政治の停滞は許されないこともしっかり認識しておかなければならない。