「内閣支持率の上下をいちいち気にすることはない。目先のことには鈍感になればいい。『鈍感力』が大事だ」。こう語ったのは元首相の小泉純一郎さんである。世間の空気に必要以上に反応することを戒めたようだ

▼政治家の資質に「鈍感力」を挙げる向きがある。周囲の評価に一喜一憂せず、信じた道を進むべきだという意味が込められているらしい。とはいえ、周りの声に耳を貸さなくなれば独善に陥る。よい政策を実行するには社会の実態を直視せねばなるまい。「鈍感力」と「敏感力」を併せ持つことこそ、優れた政治家の資質かもしれない

▼その行為が国民の目にどう映るか。そんな感覚をすっかり鈍らせてしまったのか。石破茂首相のことだ。自民党議員との会食に際し、事務所が土産名目で1人当たり10万円分の商品券を配っていたことが明らかになった

▼法には触れないと説明したが、10万円分の土産とは。与党内からも「国民の感覚と大きくずれている」との声が上がる。ましてや、派閥裏金事件で「政治とカネ」の問題が取り沙汰されるさなかである

▼高額療養費制度の自己負担上限額引き上げを巡っても、凍結に追い込まれた。国民の不安を見誤り「患者団体の理解をいただいたとした私の判断が間違いだった」と、陳謝せざるを得なくなった

▼これでは「鈍感力」でなく、ただの「鈍感」だ。首相になる前は国民人気の高さが売りだったはずだが「敏感力」はしぼんでしまった。国民との距離は開く一方ではないか。

朗読日報抄とは?