人口減少に拍車がかかる中で、生活路線と鉄道貨物のネットワークを持続させていくことは簡単なことではない。鉄道事業者と国、県と沿線自治体が結束し、一層の努力を重ねなくてはならない。

 2015年の北陸新幹線開業に伴い、JRから信越線と北陸線の一部を引き継ぎ、今月開業10年となった第三セクターのえちごトキめき鉄道(上越市)が、厳しい経営環境に置かれている。

 背景には開業以来、想定外の事象が相次いだことがある。

 新型コロナウイルス禍による利用の低迷と、沿線地域の人口減少の加速が運賃収入を直撃した。エネルギー価格の高騰と資材高も経営を圧迫している。

 経営を安定させるため、トキ鉄は今年10月に開業後2回目となる運賃値上げを行う。引き上げ幅は平均18%で、年間約7200万円の増収を見込む。利用者の負担は増えるが、経営安定のためにはやむを得ないのだろう。

 しかし、値上げをしても赤字から脱却できるほどの収支改善は見込めず、多額の資金不足となる恐れがある。

 こうした状況を受け、県と上越、糸魚川、妙高の沿線3市は新たな支援策をまとめ、26年度からの7年間で22億2千万円を補助することを決めた。地域の生活路線を確実に維持してもらいたい。

 さらに県は、変電所など大規模設備の更新に充てるため、32億5千万円をトキ鉄に貸し付ける。

 直江津(上越市)-市振(糸魚川市)でトキ鉄は主にディーゼル車両を運行するが、貨物列車も走行するため電気設備が必要だ。

 JRから引き継いだ変電所は高度経済成長期の設備で古いため、更新費が開業前に想定していた以上にかかるという。

 労働時間の短縮などでトラック運転手の確保が難しくなり、鉄道貨物の重要性はこれまで以上に増している。貨物ネットワークの維持は社会の要請であり、変電所などの更新は使命といえる。

 全国的な物流のためにも、この鉄路を欠くことはできない。

 トキ鉄は開業以来、多岐にわたる役割を担ってきた。高校生やビジネス客ら1日平均1万人近い利用者を運んでいる。

 リゾート列車「雪月花」や旧国鉄製車両の観光急行などは、上越地域の観光の目玉でもある。

 一方、沿線3市は今後、さらに人口減が進み、収入の柱の一つである通学定期券を使う高校生年代はより少なくなる見通しだ。

 経営環境が厳しくなる中ではあるが、鉄道事業者と行政それぞれが、不断の努力を続けることで鉄道網を維持してほしい。

 関係機関を後押しするのは沿線住民の熱意だ。「マイレール」という意識で積極的に使いたい。トキ鉄を持続させる鍵は住民も握っていることを意識したい。