ウイルス禍に続く物価高で打撃を受けている国民は多い。厳しい経営状況の事業者もいる。必要とする人に、支援が速やかに届くようにしなくてはならない。

 かといって、予備費を流用する異例の手法を使った予算編成には国会の監視機能が働かなくなる懸念が強い。なし崩しの財政運営にならないかと危惧を抱く。

 政府が物価高騰に対応する総額6兆2千億円の緊急対策を決定した。原油高対策、食料などの安定供給、中小企業支援、生活困窮者支援の4本柱だ。

 ガソリンなど燃油価格の抑制策、低所得世帯に子ども1人当たり5万円給付、実質無利子・無担保融資制度の期限延長、国産小麦の生産拡大の後押しといった支援策が並んでいる。

 厚生労働省は6月から5万円給付が順次始まると発表した。実施するのは各自治体だ。地域によって給付の開始時期に差が生じないよう努めてもらいたい。

 緊急対策の財源は、2022年度予算の予備費を取り崩し、1兆5千億円を支出する。その後、2兆7千億円の補正予算案を5月下旬に編成し、減った予備費に補塡(ほてん)するほか燃油価格抑制に使う。

 残る2兆円は21年度補正予算などで既に手当している。

 予備費とは、国費を臨時で支出する必要が生じた場合に備え、使い道を決めずに計上する予算だ。

 内閣の判断で使えるため、予算の使途を国会が監視する「財政民主主義」を軽視していると問題視する識者もいる。

 22年度補正予算案は予備費の補塡と燃油価格抑制策に絞るため、緊急対策の中身や妥当性などを広く議論することが難しくなった。

 さらに政府は、5万円給付に充てるウイルス対策予備費の使用目的を拡大し、物価高対策に支出できるようにもする。後付けの対応にほかならないのではないか。

 鈴木俊一財務相は機動的に緊急事態に対応する必要性を強調するが、政権に都合のいい異例の手法を用いたことには疑問がある。

 政府と自民党はもともと、国会の予算審議による野党の追及をかわすため、予備費を財源に充てる方針を固めていた。

 一方、公明党は実績をアピールできる大規模な補正予算の編成を主張してきた。

 行き着いたところが、予備費を取り崩し、補正予算で穴埋めする折衷案だった。夏の参院選を見据えた、政治的な妥協の産物だと言ってもいいだろう。

 緊急対策で一時高齢者に5千円を給付する案が浮上し、「ばらまき」と批判されたのも、参院選目当てが透けていたからだ。

 物価高対策を急ぐのは当然だが、そのために国会での論議を省いてもらっては困る。こうした点を野党はしっかり突き、対策の中身も深めてほしい。