極めて尊い宝物を意味する「至宝」という言葉は達人を指す際にも使われる。非常に優れた技量で周囲を魅了する人は、宝と呼ぶにふさわしい。芸術の世界やスポーツ界でよく耳にする

▼サッカー界では母国をワールドカップ優勝に導き、J1神戸でも活躍したイニエスタ選手が「スペインの至宝」と呼ばれた。日本の至宝といえば、芸術的なフリーキックで観客を熱狂させた中村俊輔選手らが思い浮かぶ

▼食文化の世界でも、この称号を公式に使うことになりそうだ。文化庁の有識者会議は、日本料理や西洋料理、菓子などの分野で頂点に立つ技術を有する個人を「食の至宝」と呼んで顕彰する制度の創設を提唱した

▼多様な食文化を次世代に継承するためという。新制度を人間国宝(重要無形文化財保持者)の認定材料にすることも検討しているようだ。歴史的に価値が高い技術があるとか、料理を通じ芸術的価値を表現した、などが選考基準で、料理人やソムリエ、女将(おかみ)らを想定している

▼ふと思う。食文化を支える食材を届けてくれる人々の中にも、至宝と呼ぶにふさわしい存在がいる。コメや野菜の生産や畜産、漁業に従事する人である。とりわけ、食材の宝庫である本県には名人や達人と呼ばれる人が多い

▼料理の世界では時に、世間から脚光を浴びる「スター料理人」がもてはやされる。ならば食材を生産している「至宝」にも、もっと光が当たっていいはずだ。そうなれば、生産現場全体の地位向上にもつながるのではないか。

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