ロシアがウクライナに軍事侵攻して2カ月以上が過ぎた。

 戦火に見舞われれば、どんなに悲惨な状況になるのか。

 平和の尊さを今ほど感じることはない。戦争は絶対にしてはならない。ウクライナの現状は、そのことを私たち日本人に強く訴えかけている。

 施行から75年、今こそ戦争放棄をうたった日本国憲法を見つめたい。

 ◆専守防衛守れるのか

 ロシアだけではない。軍事的圧力を強める中国、北朝鮮の相次ぐミサイル発射など隣国情勢は近年になく緊迫している。

 戦後続いてきた平和はかつてなく危うい状況にある。

 新潟日報社が、県内大学生に憲法観を聞いたアンケートでは、「ロシアのウクライナ侵攻で日本も戦争をするのではないかと不安がある」と答えた人が6割近くを占めた。

 憲法の理念である国際平和を求める動きを強めていかねばならない時にある。

 しかし、脅威を背景に防衛力強化への動きが顕著になっていることに、憂慮の念を禁じ得ない。憲法9条に基づく専守防衛の原則が揺らいではならない。

 自民党安全保障調査会は4月末、政府の「国家安全保障戦略」などの改定に向けた提言を、岸田文雄首相に提出した。

 自衛目的で相手領域内のミサイル発射を阻止する「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」に名称変更して保有するよう要請した。反撃能力の攻撃目標として、司令部などを念頭に「指揮統制機能等」と明記した。

 自民は、相手が攻撃に着手したと認定すれば攻撃が可能だとしているが、武力攻撃を受け初めて防衛力を行使するとした専守防衛から逸脱しかねない。

 提言には、防衛費の国内総生産(GDP)比2%以上とすることを念頭に防衛力の抜本的強化を図ることも明記された。

 防衛費はGDP比1%程度とすることが目安となってきた。周辺諸国との緊張を高め、軍拡競争をあおる心配もある。

 さらに与野党の一部からは、米国の核兵器を日本に配備し共同運用する「核共有」政策を議論すべきだとの声が上がった。

 唯一の戦争被爆国として掲げている、核兵器を「持たず、つくらず、持ち込ませず」の非核三原則に反することは明白だ。

 核兵器の保有や使用を全面的に禁止する核兵器禁止条約が2021年に発効しており、被爆者らが「条約を否定する、世界市民への敵対行為だ」と非難するのは当然だ。

 岸田首相は核共有の政府による検討は否定し、「核兵器のない世界に向け現実的な努力をしなければならない」と国会で答弁している。その責務を具体的にどう果たしていくのか。

 ウクライナ侵攻後の3~4月に行われた共同通信社の世論調査によると、9条改正の必要性は「ある」50%、「ない」48%で賛否は拮抗(きっこう)している。

 憲法改正の機運については、7割が「高まっていない」と回答している。

 ◆改正機運に世論冷静

 自民などはウクライナ侵攻といった危機を挙げ9条改正の論議の進展をうかがうが、世論は冷静に見ていると言える。

 気になるのは岸田首相が就任前後から改憲に積極的な発言をするようになったことだ。「参院選後、改憲を実現したい」と周囲に意欲を語っている。歴代の党総裁ができなかった改憲を実績としたい思惑なのか。

 国会では自民と日本維新の会、公明党などが共同提出した憲法改正手続きに関する国民投票法改正案が先月、衆院憲法審査会で審議入りした。

 自民は新型ウイルス禍を受け、緊急時に政府権限を強める「緊急事態条項」の新設を改憲の突破口と期待するが、私権制限への懸念もある。国会は慎重に審議をしてもらいたい。

 民主主義の根幹が揺らぐことのないように、私たちも憲法の持つ意義と理念を見据え、しっかりと考えていきたい。

 写真=ウクライナ侵攻に反対する市民のデモ(4月、東京)