「信者には信仰の自由がある」。こう主張した教団幹部に、坂本堤弁護士は顔を紅潮させて反論した。「人を不幸にする自由は許されない」
▼1989年10月、坂本弁護士がオウム真理教の幹部と信者の脱会問題などについて交渉した際、こんなやりとりがあったという。坂本弁護士一家はこの数日後に行方が分からなくなった。後に、オウム側に殺害されていたことが明らかになった
▼日本国憲法20条は第1項で「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」とうたう。人はどういう信仰を抱こうとも自由であり、信仰に基づいて行動することも妨げられない。思想・良心の自由などと同じく、憲法の基本原則である
▼ただし…。ここで坂本弁護士が残した言葉をかみしめたい。自由の名の下に、人を不幸にする行為は許されないのだ。信教の自由を守る必要がある一方、人を不幸にする自由は存在してはならない
▼「常におなかが減っていて、スーパーの残飯をあさったり万引したりして食べていた」。共同通信が昨年実施した「宗教2世」に対するアンケート調査で、両親が旧統一教会の信者という40代女性は子どもの頃をこう振り返った。信仰の名の下に周囲が窮乏したり、社会生活を営めなくなったりする事例は後を絶たない
▼東京地裁が旧統一教会に解散を命じた。国による宗教への介入は極めて慎重であるべきだが、司法は被害が甚大でやむを得ないと判断した。教団は政界とのつながりも指摘された。解明すべき闇は深い。