センバツ甲子園の熱戦が続いている。本県勢の不在に物足りなさを感じつつ、2011年の大会を思い出す。東日本大震災の発生直後だった。戦績以外の要素も評価される21世紀枠で佐渡高が出場した
▼常連校の智弁和歌山高を相手に長打で1点をもぎ取り、中盤まで接戦を演じる。敗れたものの、佐渡で生まれ育った選手が晴れ舞台でプレーする姿に島は沸いた
▼14年前の記憶を呼び起こさせたのは、今年の大会に同じ21世紀枠で出た長崎県の壱岐高である。部員25人全員が壱岐島の中学出身という。島の人口は1960年代から半減し2万4千人を割ったが、アルプス席は4千人の大応援団で埋まった
▼一つのストライク、一つのアウトを取るたび、歓声がすさまじい。テレビ越しにも伝わる。試合は逆転負け。なれど、応援の迫力は相手スタンドをしのいだ
▼選手は「島から甲子園へ行こう」と誘い合い、壱岐高に進学した。練習試合などで制約があるのは分かっていた。昨秋の九州大会で8強に進み甲子園を射止めると、島民は「100年に一度の奇跡」と喜び合った。大漁旗を振って選手を大会に送り出したという
▼試合を見ながら一投一打に感情移入してしまったのは、故郷へのまなざしを重ね合わせたせいだろう。練習環境に優れた強豪私学に有望選手が偏る傾向は、首都圏へ人口が流出する構図に似たところがある。地元にこだわり、地元に胸を張る若者と、それを全力で応援する島ぐるみの思いが、気持ちを弾ませてくれた。