子どもが電話で専門家に疑問をぶつけるラジオ番組がある。「サルも声変わりしますか?」「笑うと頭の中で何が起きますか?」。難しい専門用語を勉強している子もいて、一線の研究者がたじたじとなる場面もある
▼質問は多岐にわたり、みずみずしい視点に驚かされる。振り返れば子どもの頃、世界は謎だらけで知りたいことがいっぱいあった。次から次へと湧き出す好奇心が薄れたのは、いつからだろう。世界を新鮮な目で見る感受性を失うことも、老いを意味するのかもしれない
▼柏崎市出身の医師で翻訳家の阿部大樹(だいじゅ)さんの新著「now loading」は、自身の育児日記だ。子どもが初めて言葉を話してから、うそをつくまでを記録した
▼「子育てをすると親は自分の成長過程を追体験する」とよく言われる。阿部さんは親の視点に加え、人の心の微細な変化を捉える精神科医や文筆家としての観察も交え、わが子の歩みを見つめた
▼ある時、子どもに「自分」という感覚が現れる。言葉に対人性が出てきて、言い方を使い分け始める。短期間で吸収し、順応して応用を覚えていく子どもの成長は驚異的だ。人工知能(AI)の学習過程より複雑で優れているのでは、と頼もしくなる
▼子ども電話相談で、ある専門家が正直に答えていた。「先生たちにも分からないことはいっぱいある。だから今後もよく観察していって」。長く生きていても知らないことはたくさんある。知る意欲をなくしたくはない。子どもに教えられた。