1929年10月、ニューヨーク株式市場で株価が一斉に暴落した。影響は広がり、長期に及ぶ世界的な恐慌につながっていく。対策を迫られた米国は翌年、1本の法律を成立させた。国内産業を守るために海外からの輸入品に高関税をかけるスムート・ホーリー法である
▼ジャーナリストの池上彰さんはこの法で「おおむね2万品目に平均60%もの関税をかけた」と著書に記す。欧州各国は報復関税や輸入制限で対抗し、世界の貿易額は急激にしぼんだ。この貿易停滞こそまさに大恐慌の元凶だったと、池上さんはみている
▼主要国は防衛策として、植民地や自治領などの間で通商を確保するブロック経済を敷いた。経済圏同士で生じた摩擦や対立が、第2次世界大戦の一因になったとされる
▼世界がゆがんでいった歴史を想起する。トランプ米大統領が、大胆な関税政策の発動を一方的に発表した。全ての貿易相手国に一律10%を課す。日本は上乗せされ24%になる。戦後築かれた自由貿易の国際ルールなどお構いなし。世界経済の縮小は避けられまい
▼「最も美しい言葉は関税」だと言ってはばからぬ大統領は、米国に黄金時代が来ると自信たっぷりの様子。思惑通り自国の利益に資するかは見通せないが、これから得意の取引が始まるのか
▼損か得か、敵か味方か、強引に線を引いて切り分ける。そこにためらいは感じられない。いつものトランプ流が繰り返された。米国の孤立を恐れる。国際社会の分断を恐れる。歴史の再現を恐れる。
