民主主義を踏みにじった暴挙であり、審判の結果は妥当だ。韓国は一日も早く国政を安定させ、混乱と分断が深まった事態を収拾させてもらいたい。

 韓国の憲法裁判所は4日、昨年12月の「非常戒厳」宣言を巡り弾劾訴追された尹錫悦(ユンソンニョル)大統領に対し罷免する決定を言い渡した。尹氏は即時失職となった。

 裁判官8人の全員一致の意見だ。尹氏を「民主主義を否定し、憲法を無視した違法性は重大だ」と厳しく指弾した。

 尹氏は国会で多数を占める野党が「国政や司法をまひさせている」として唐突に戒厳令を宣言した。戒厳司令部は政治活動の禁止や言論統制などを布告し、軍を国会に突入させた。

 国会は法的要件を満たさず戒厳令を発動したとして尹氏の弾劾訴追案を可決した。

 審判で尹氏側は「秩序維持が目的」「大統領の統治行為だった」と棄却や却下を求めた。

 憲法裁は、戒厳令当時、憲法が要件として規定する「戦時やこれに準ずる国家非常事態」ではなかったと断じた。

 国政運営に行き詰まった結果、戒厳令を出して軍隊を動員したという、過去の軍事独裁政権を想起させる行いであり、断罪されたのは当然だろう。

 審判は、最高権力者の行動も抑制できる、韓国の民主主義の健全さを示したといえる。

 尹氏に対しては、弾劾訴追された後も支持者に結集を訴えるなど、国内対立をあおったとの批判も出ている。暴徒化した一部は尹氏の逮捕状を発付した裁判所を襲撃する事態を招いた。

 一方の野党も3月に尹氏を釈放したことを巡り、裁判所などに猛抗議した。

 与野党双方の支持者の間で司法不信が広がった。民主主義の基本である三権分立を脅かす行為であり、二度とあってはならない。

 60日以内に大統領選が行われることが定められており、6月3日の投開票が有力視されている。

 憂慮すべきは大統領選を通じて対立や混乱がさらに深まりかねないことだ。

 与野党は、戒厳令以降に深まった社会の分断が収束するよう取り組むべきだ。

 韓国政治の長引く混乱は日本をはじめ、東アジアの安定にも悪影響を与えかねない。

 ロシアによるウクライナ侵攻などにより世界が軍事的に不安定化している。

 核開発を進める北朝鮮や、軍事増強を図っている中国の動きも気にかかる。東アジアの安全保障には日米韓の連携を強固にすることが不可欠だ。

 今年は日韓国交正常化60年の節目に当たる。日本政府は新政権との間でも、信頼関係を維持するよう努めねばならない。