地下に足を踏み入れると、前に進めないほどの人だかりができていた。重低音の音楽にのる人々の熱気で、眼鏡のレンズが白く曇る
▼これは1週間前。新潟市中央区の地下商店街「西堀ローサ」が幕を下ろす前々夜の光景だといえば、驚く人もいるだろう。人混みの中心にテクノミュージシャン、電気グルーヴの石野卓球さんの姿があった。石野さんのDJに地下街はクラブと化した。すれ違う人と肩がぶつかる盛況ぶりだ
▼古町を盛り上げようとローサで週末に開催されてきた人気企画「古町夜市」のイベントだった。5時間で5600人も集まった。音楽だけでなく、ローサとの別れを惜しみ、県外から来た人もいた
▼ローサは今後、新潟市が取得予定で、再活用策が決まり次第、大規模な改修工事を行うという。気候に左右されない地下街は雪国の貴重な資源だ。一方で築49年の施設は巨額の維持費がかかる。この先、ローサはどうなるか
▼「古町夜市」発起人の永井大地さん(37)は、維持する難しさを理解しつつ、先行きを気にかける。「なくしてから気付くことはたくさんある。ローサも埋めるとか壊すとなったら、二度と元には戻らない」
▼かつて新潟市の市街地を巡っていた堀割が頭をよぎる。新潟では汚れた堀割は埋め立てられたが、再生した福岡県柳川市はいま、川下りを楽しむ観光客でにぎわう。「新潟の歴史をつくった古町に関心を持ってほしい」と、永井さんはこれからも場所を移して「古町夜市」を続けるつもりだ。