トイレの便座を上げたまま座ってしまった。裸で風呂場に行ったら湯船は空だった…。「あるある」とケラケラ笑って読んだ子も多いだろう。鈴木のりたけさんの絵本「大ピンチずかん」は、子どもにとっての数々の“緊急事態”をユーモラスに描く
▼日販調べの昨年の年間ベストセラー総合ランキングで、1作目と2作目が2位と4位に入った人気作だ。その第3弾最新作が県内書店でも店頭に並んだ。子どもたちの日々はピンチにあふれているのだ
▼鈴木さんは目の付け所が面白い。ページをめくりながら、とっくに忘れた子どもの頃の感性がよみがえる。ピンチは往々にして失敗がもたらす。多くの人が共感できるのは、それが成功体験ではなく失敗物語だからなのかもしれない
▼程度にもよるが、人を傷つけない失敗談は時に笑える。何年たっても仲間同士で飽きずに盛り上がるのは、失敗自慢だったりする。ただ、大真面目にやった結果の失敗でなければ笑えない。ごまかしや手抜きが招いた失敗はネタにならない
▼この春、自治体の新採用職員への辞令交付式で、新発田市の二階堂馨市長は「空振り三振は許すが、見逃し三振は許さない」と挑戦を促した。「攻めて考えて前に動いたミスは一切責めない」と激励したのは佐渡市の渡辺竜五市長だ
▼ピンチや失敗をカバーし合う職場で君たちを受け止める、と宣言したとも取れる。仕事は厳しいもの。プロにはプロの自覚が必要である。でもね…の先を、両市長は言葉にしてくれた。