鹿児島県の鹿屋基地を緊急発進したばかりの海軍の戦闘機に、米軍機の大群が襲いかかった。撃墜された海軍機のパイロットは20歳の杉田庄一。1945年4月15日のことである

▼安塚村小蒲生田(こがもだ)(現上越市浦川原区)に生まれた杉田は、15歳で海軍に志願する。戦闘機の搭乗員となり、卓越した技術で「空戦の神様」と呼ばれた

▼南太平洋のラバウルから前線視察に出た連合艦隊司令長官で長岡市出身の山本五十六を護衛する6機の一つに搭乗した。だが山本が乗った機体は米軍機の待ち伏せに遭って撃墜され杉田は任務を果たせなかった

▼爆弾を積んで敵艦に体当たりする特攻隊機を護衛する任務にも就いたが、戦友が次々に死んでいく日々に耐えられず、拳銃を持って上官に特攻を願い出た。ところが、上官に「特攻ならいつでも行ける。それよりお前は内地に帰れ」と言われ、本土防衛に備えるため激戦地のフィリピンから日本に戻される

▼杉田の短くも壮絶な生涯は元上越教育大教授の石野正彦さん著「最強の海軍戦闘機搭乗員 杉田庄一の太平洋戦争」に詳しい。石野さんは、多くの若者と接する中で「アメリカと太平洋戦争をしたということさえ知らない者も少なくない」と嘆く

▼太平洋戦争の敗戦から今年で80年。今もウクライナや中東で戦火は絶えない。政治家や権力者が始める戦争だが、最前線で戦い、命を落とすのは若者が多い。「人類は過去の戦争から何も学んでいないように思う」。石野さんの指摘はずしりと重い。

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