市民の自由が失われていく中で、香港の統制強化が一段と進むことに懸念が募る。

 任期満了に伴う香港行政長官選挙が8日、投開票される。立候補しているのは李家超(りかちょう)前政務官(写真、共同)だけで、事実上の信任投票となる。

 李氏が当選すれば、香港政府のトップである行政長官に初めて警察出身者が就く。国際金融センターである香港の「警察都市」化を印象付ける大きな変化だ。

 李氏は2017年に政府治安トップの保安局長となり、強硬姿勢で知られてきた。

 20年に香港国家安全維持法(国安法)が施行されてからは、国安法による民主派摘発を主導した。

 対中批判を続けた香港紙、蘋果(ひんか)日報(リンゴ日報)を廃刊に追い込んだことなどが功績として評価され、政務官に昇格した。

 強権統治を進める中国・習近平(しゅうきんぺい)指導部の信任が厚いという。李氏がトップになれば、習指導部の意向がより明確に反映される政府になるのは間違いないだろう。

 現職の林鄭月娥(りんていげつが)行政長官が選挙直前に不出馬を表明したのも、新型ウイルス対策や市民の抗議デモの押さえ込みを巡り、習指導部が林鄭氏の手腕を疑問視したためとの見方が強い。

 1997年の英国からの返還後、中国が香港に高度な自治や言論の自由を認めた「一国二制度」は国安法施行によって形骸化が進んだ。香港基本法(憲法に相当)が目標とした民主的な手続きによる普通選挙の実現はほごにされた。

 行政長官選挙は一般市民に投票権はなく、選挙委員会の委員だけが投票できるが、委員会は親中派が独占している。

 昨年5月の選挙制度変更で、行政長官選挙の立候補には「愛国者」であるかを基準に立候補資格を審査する「資格審査委員会」が導入され、政府に批判的な勢力は立候補さえできなくなった。

 選挙といっても中国指導部の意向を追認するに等しい。民主派を封殺し、民意を踏みにじるものであり、到底容認できない。

 中国と香港の一体化が顕著になる中で、注視したいのは李氏の行政手腕だ。治安部門以外の経験はほぼないという。香港にとって重要な経済政策や、中国本土が「ゼロコロナ」政策を堅持している新型ウイルス対策をどう進めるか。

 国際金融センターである香港は、自由で開かれた土地であるべきだ。政府が市民への弾圧を強めれば、国際的な信用を失うことになりかねない。李氏にはそのことを強く認識してもらいたい。