何人もの議員が「重く受け止める」と口にした14万3196筆の署名に基づく議案は、県議会で淡々と否決された。柏崎刈羽原発の再稼働を問う県民投票は実現しなかった

▼想定されたことである。印象に残るのは、署名を集めた側の代表者8人による臨時会初日の意見陳述だ。毅然(きぜん)としていた。力の宿る言葉で伝えるべきを伝えた。その上での議会判断である

▼県民、そして知事も議会も、重い荷物を負わされている不条理を思わずにいられない。ひとえに、国として原発を巡る議論の成熟を経ていないことによるひずみと言えまいか

▼東日本大震災は原発リスクを白日の下にさらした。あまりに大きな代償を前に、政府は原発への依存度の低減を決めた。妥当性は広く共有されていたはずだ。しかし岸田前政権は国民的議論もないまま「最大限活用」に転換した。経済優先の論理と脱炭素への貢献という大義の前に、合意形成もヘチマもなかった

▼置き去りの市民の思いが、今回の署名につながったのではないか。「意思表示をしたい」「手の届かぬところで勝手に決められたくない」。主権者としての目覚めを感じた人もいただろう。署名集めを担った受任者は7千人を超えた

▼これほどの署名を集めながら、要望は届かなかった。政治に対する無力感が広がることが危惧される。直接請求の願いを無にせず、手段は違っても、知事が県民意思をいかにくみ取るかだが…。中央の人々は「さっさと決めてくれよ」としか思わないだろうか。

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