組織全体の法令順守意識の低さが露呈した。重要な社会インフラを支える現場で、不正が常態化していたことは看過できない。失った信頼を取り戻す道はたやすくないと肝に銘じるべきだ。
日本郵便は集配業務を担う全国の郵便局3188局のうち75%に当たる2391局で、配達員の酒気帯びの有無を確認する法定点呼業務が不適切だったと発表した。
点呼は、業務開始時や終了時に実施し、アルコール検知器を使って酒気帯びの有無を確認するものだ。安全運行の要として、運行管理者に義務付けられている。
同社の千田哲也社長は会見で「かなり前からの、不徹底ではないか」との認識を示した。組織全体で、慣行的に行われていた実態にあぜんとする。
横浜市戸塚区の郵便局で配達員が昨年5月に業務中に飲酒し、酩酊(めいてい)状態で運転していたことが今年3月に発覚した。特定の個人の問題とみられたが、これでは組織としての認識の甘さが引き起こした事態だったと言うほかない。
昨年5月以降、全国で点呼の徹底を指示したものの、現場に浸透しないままだったという。そればかりか、不適切な点呼をごまかすための虚偽報告もあった。あまりにもずさんだ。
日本郵便では、この1年だけでも、不祥事が相次いでいる。
昨年6月には、ゆうパックを配達する下請け事業者に対し、誤配などが生じた場合に、十分な根拠を示さずに内規で定めた「違約金」を徴収していたなどとして、下請法違反の疑いで公正取引委員会の行政処分を受けた。
9月にはゆうちょ銀行の延べ約1千万人分の顧客情報を、同じ日本郵政傘下のかんぽ生命保険の営業目的に不正流用していたことが発覚した。千田氏ら、グループ各社幹部の処分に発展している。
繰り返される不祥事に、千田氏は「ほかでも起きているのではないかという発想が足りなかった」と反省を述べた。
これを契機に、今まで明るみに出てこなかった問題も含め、徹底してうみを出し切るべきだ。
日本郵便は昨年10月、郵便料金を値上げした。特に手紙(25グラム以下の定形郵便物)は、30年ぶりの料金改定となり、1通84円から110円になった。
電子メールなどの普及を背景とした郵便離れに加え、人件費や燃料費の高騰で赤字に陥る郵便事業の収益改善が狙いだった。
郵便という社会インフラの維持に必要だからこそ、消費者は値上げを受け入れてきたはずだ。
しかし、安全を軽視し、不正が常態化するようでは、安心して郵便を託すことはできない。
国土交通省と総務省から厳しい行政処分を受ける可能性がある。日本郵便は今度こそ立ち直れるのか、自浄能力が問われている。