日本人の主食であるコメは、貿易交渉において長く「聖域」として守られてきたものである。米国の一方的な要求に応じて安易に譲歩してはならない。
日米関税交渉で、政府が米国産のコメの輸入を増やす方向で検討している。年約77万トンを非関税で輸入するミニマムアクセス(最低輸入量)の制度内で、米国向けに6万トン程度の枠を設定する案が軸だという。
トランプ米大統領は「日本はコメを売ってほしくないので700%の関税を課している」と日本市場の閉鎖性を批判した。数字は不正確だが、当初からコメを重視する姿勢を見せてきた。
日本国内ではコメが品薄となり価格が高騰する「令和の米騒動」が続いている。消費者から割安な輸入米を求める声が上がっていることもあり、輸入枠の拡大が浮上したのだろう。
米国からの輸入量が増えても、ミニマムアクセスは変えない。日本政府は国内農家への影響は限定的と分析しているようだ。
しかし、米国産の安価なコメが日本国内で大量に販売されれば、国産米は激しい価格競争にさらされかねない。
日本の農業は、農業従事者の減少や耕地面積の縮小といった困難な課題に直面している。米国産のコメが大きな打撃を与える懸念は拭えない。
何よりも国内で自給が可能なコメの輸入を増やすことによって、農家のコメ作りへの意欲がそがれないか心配だ。
花角英世知事は記者会見で「国内生産を原則として進めてもらいたい。食料の供給基地として本県が機能を果たしたい」と述べた。農業県のリーダーとして、当然の姿勢である。
政府は今月、今後5年間の農政の方針を示す「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定し、食料安全保障の強化を打ち出した。
計画では、コメの生産力を高めて輸出を現状の8倍近い約35万トンに拡大し、緊急時には国内消費に振り向けられるようにするとした。2023年度に38%だった食料自給率を、30年度に45%に引き上げる目標も盛り込まれている。
背景には、世界で紛争や異常気象の発生が相次ぎ、食料の供給不安が高まっていることがある。
米国産のコメ輸入枠の拡大は、食料安保の強化に相反することにならないか。
石破茂首相は衆院予算委員会で日米関税交渉について「どんどん妥協して、早く交渉をまとめれば良いとの考えには立っていない」と強調している。
それならば、コメを交渉カードに用いることに、もっと慎重でなければならないはずだ。
コメとともに輸入拡大を検討している大豆とトウモロコシについても同様である。