祖国のためだと強調し、独善的な主張を繰り返しただけだ。ファシズムから祖国を解放した77年前の戦いを持ち出し、今回の侵攻を正当化することは許されない。

 ロシアのプーチン大統領は9日、モスクワで開かれた対ドイツ戦勝記念日の式典で演説し、ウクライナ侵攻を「唯一の正しい選択だった」と述べた。

 軍事作戦を「祖国の未来のため、ナチスを復活させないための戦い」と強調。侵攻当初と変わらず、ウクライナのゼレンスキー政権をネオナチ政権と位置付け、親ロ派が実効支配する東部ドンバス地域の市民を守ると訴えた。

 プーチン体制下で最も重要な祝日である戦勝記念日に、ナチスとの戦いを引き合いに語ることで、国民に「神聖な戦い」を印象付ける狙いがあったのだろう。

 国際社会に対しては、ロシアが昨年12月に北大西洋条約機構(NATO)を東方に拡大させない新たな安全保障の枠組みを提案したが、欧米が耳を貸さなかったとして侵攻を正当化した。到底、受け入れられない主張だ。

 侵攻は一時、ロシア軍が首都キーウ(キエフ)周辺に迫ったものの、陥落できなかった。現在はドンバス地域のルガンスク、ドネツク両州に攻撃の重点を置くが、ウクライナ側の反撃で完全掌握には至っていない。

 そうした中でプーチン氏は演説で兵士をたたえ、国民に結束を求めた。ロシアが「特別軍事作戦」としている侵攻を、「戦争」状態にあると宣言し、大規模動員などに道を開くのではないかといった観測があったが、「戦争」という言葉は使わなかった。

 戦争を宣言すれば、ウクライナでの苦戦を認めることにもなる。戦争を嫌う国民の支持を取り付けることも意識したのではないか。

 断じて許せないのは、ロシア軍がなお市民を標的にした卑劣な攻撃を続けていることだ。

 7日にはルガンスク州で学校が空爆され、避難していた90人のうち約60人が死亡した。

 ウクライナ側の抵抗拠点となったマリウポリのアゾフスターリ製鉄所は、国連仲介による民間人の待避が完了した。しかしその途中にも攻撃があり負傷者が出た。

 ドンバス地域2州を早く完全制圧したいのだろうが、市民や民間施設を標的にする残虐な攻撃は断固として非難する。

 ロシアを停戦に導くために、国連の動きに注目したい。

 安全保障理事会は6日、ウクライナの平和と安全の維持に懸念を表明する議長声明を、ロシアを含む全会一致で採択した。

 侵略や戦争といった表現は省かれたが、侵攻後初めて安保理の公式見解である議長声明が出されたことには意義がある。

 無益な戦いをやめさせるために、国際社会は結束を強めたい。