ちょっとした拍子にその言葉が出た途端、たちまちその場の空気がこわばり、それまでの和やかな気分がうせて場がしらける。作家の井上ひさしさんは「憲法」とはそんな言葉だと書いている(共著「日本国憲法 を読み直す」)

▼そもそもが、憲 (おきて)の中の法(おきて)という単語の成り立ちだ。「憲法という言葉がいかめしすぎるからいけないのである」ということになる

▼今ある憲法を鉄のよろいで覆わずに、意味や価値を日ごろ意識し、口にできるようにできないものか。井上さんは「この国のかたち」と読み替えることを提案していた。日本がどういう国であるのかを文字で表したもの-。憲法の一番正しい定義だとしている

▼日本国憲法の三大柱は言わずと知れた「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」である。前述の著書で共著者である憲法学者の樋口陽一さんは、三本柱をさらに束ねる大原則が「個人の尊重」だと解説する。条文で言えば13条になる

▼「この世に生まれた一人一人が自分が自分であることを尊び、自分が自分でなくなることを恐れる、という意味で個人を大切にする原理」。樋口さんは13条をこう読み解いた。言葉がすっと頭に入る

▼おそらく私たちは、人生の節々で憲法に守られてきたのだ。そして、守られてこなかった現実もすぐ近くにあることを思う。個人の尊重が踏みにじられる国や紛争地が今も存在することを心に留めつつ、この国のかたちを考える。憲法記念日をそんな日にしたい。

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