祭り太鼓が鳴り響き、観光客の姿が増えて佐渡の春は活気づく。今冬は雪が多く、寒さが長引いた。船便も少なく、寂しさが募る島の冬を初めて経験した佐渡総局の同僚が「春ってこんなにうれしいものなんですね」と顔を輝かせる

▼4月は佐渡の80以上の集落で祭りが行われ、そのほとんどで鬼太鼓の門(かど)付けがある。一団は朝からにぎやかに集落を回り、家々の玄関先で舞い、厄をはらう

▼〈遠太鼓聞えてしばし落ち着かず島の鬼太鼓春を告げをり〉〈ガラス戸を震わす太鼓の音に乗り土間へ鬼太鼓一気に舞い込む〉。過去に本紙文芸欄に掲載された作品から。住民が来訪を心待ちにする様子が伝わる

▼主に5流派あり、集落でも違いがある。それぞれ誇りを持ち伝承しているが、どこも過疎や高齢化による担い手不足が深刻だ。途絶えたり、門付けを断念したりする所も出ている。高齢を押して担うなど「毎年が綱渡り」という実情だ

▼集落外から助っ人を呼ぶため、祭りの土日への変更も進む。継承策の一つだが、休日は学校での門付けがない。「鬼組の一員として門付けに来る子はほかの子の憧れの的。伝統に関心を持つ機会だった」と関係者は残念がる

▼家々では鬼たちも面を外して、酒や料理のもてなしを受ける。「ばあちゃん、元気か」「あんた、あそこのあんちゃんだね」。老いも若きも集落の特別な日を共にし、絆を保つ。過度に保護の対象とされたり、観光化されたりしていない本物の郷土芸能が失われていくのは寂しい。

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