国民の生活実態を顧みない発言であり、更迭が回避できなかったということだろう。続投方針を一転させた首相の判断は、国民感情への感覚の鈍さを露呈した。
石破茂首相は「コメは買ったことがない」と発言した江藤拓農相の更迭に踏み切った。21日、江藤氏が辞表を提出し、受理された。
批判が噴出した当初、江藤氏は発言を全面撤回し、謝罪したものの辞任は否定した。首相も続投を明言していた。
米価高騰対策が政権の喫緊の課題となる中で、担当閣僚の交代による混乱を避ける狙いがあったのだろう。甘い判断だったと言わざるを得ない。
判断を一転した背景には、野党5党が更迭を求める方針で一致したことがあるとみられる。野党は農相の不信任決議案提出を検討することも確認していた。
不信任決議に法的拘束力はないが、可決されれば今後の国会審議に与える影響は大きい。
与党内でも発言が報じられた当初から失望が広がり、夏の参院選が迫る中で、交代を求める声が高まっていた。
江藤氏の更迭に関し、首相は「全て任命権者たるわたしの責任だ。いかなる批判があっても私が受け止める」と語った。
朝令暮改の対応で首相の求心力低下は必至だ。気を引き締めて政権運営に当たらねばならない。
今、問われているのは任命責任だけではなく、石破政権の実行力そのものだ。
昨年10月の政権発足から7カ月余りが経過したが、今国会で審議される予定だった重要課題は次々と先送りされている。
企業・団体献金を巡っては、期限としていた3月末までに結論を得られなかった上、公明、国民民主両党と合意した政治資金規正法改正案の今国会提出を取りやめる方針を決めた。
選択的夫婦別姓制度も、自民党は党内議論がまとまらず、独自法案の今国会提出を見送る。
年金制度改革法案は衆院で審議入りしたものの、目玉だった基礎年金の底上げは、党内の異論に配慮し盛り込まなかった。
後任の農相には党農林部会長の経験がある小泉進次郎氏を充てる。山積する農政課題に責任を持って取り組んでもらいたい。
首相は21日の党首討論で「必ずコメ価格を下げる」とし、コメ5キロ当たりの価格に関し「3千円台でなければならない。4千円台はあってはならない。その価格を一日も早く実現する」と述べた。
少数与党である上、党内基盤が脆弱(ぜいじゃく)な首相にとって、思うように自身の政策を推し進められないというもどかしさはあるだろう。
それでも、政治には結果が求められる。目の前の政策を着実に実行することで、失われた信頼を取り戻さねばならない。