人道危機がますます悪化していることを深く憂慮する。多くの子どもたちが飢えに苦しみ、命を落とすケースも後を絶たない。一刻も早く必要な物資を行き渡らせねばならない。

 イスラエルはパレスチナ自治区ガザに、人道支援物資を積んだトラックが入ったと発表した。3月2日に搬入を停止して以降約2カ月半ぶりとなる。

 だが、入ったトラックは1日当たり100台ほどだ。ガザ当局は500台分の支援物資と50台分の燃料を必要としており、最低限をはるかに下回る。

 ガザの食糧不足は深刻だ。自治政府統計局などによると、2023年10月に戦闘が始まって以降、今年4月上旬時点で子ども52人が栄養失調で亡くなった。

 国連児童基金(ユニセフ)は、今年に入り、子ども9千人以上が急性栄養失調で入院したと発表した。医薬品は底を突き、治療を受けられない子どもも多い。

 国際社会から、国際人道法違反との非難が強まるのは当然だ。イスラエルはガザの封鎖を解除し、迅速に物資搬入を拡大することが求められる。

 にもかかわらず、イスラエル軍が再び大規模な空襲と地上侵攻を始めたことは、看過できない。

 イスラエルのネタニヤフ首相は声明で、ガザ全域の「制圧を目指す」と述べた。

 軍事的圧力を強めることで、再開した停戦交渉でイスラム組織ハマスに人質解放や武装解除などの要求受け入れを迫る狙いがあったが、ハマスは反発し、停戦交渉は進展しなかった。

 5万人を超えた犠牲者は、さらに増え続けている。飢えと攻撃の恐怖にさらされる住民を思うと、切なくなるばかりだ。

 気になるのは、ネタニヤフ氏と後ろ盾となるトランプ米大統領との関係に陰りが見えることだ。

 ネタニヤフ氏が強硬姿勢を崩さないことや、トランプ氏がネタニヤフ氏の提起したイラン核施設攻撃計画を退けたことで不協和音が目立つ。トランプ氏は中東歴訪で、イスラエルを訪問しなかった。

 極右政党の影響力が増すネタニヤフ政権が、これ以上強硬路線に走らないよう、トランプ氏はしっかりと歯止めをかけ、停戦へと導いてもらいたい。

 イスラエル軍は21日、ヨルダン川西岸を視察していた日本を含む外交団が、立ち入りを認めていない地域に入ったとして、警告射撃を行った。外交官の保護はウィーン条約に定められており、断じてあってはならないことだ。

 米ワシントンでは、イスラエル大使館職員2人が銃撃され死亡した。容疑者は「パレスチナに自由を」と叫んでいたという。

 憎悪の連鎖が広がることが懸念される。そうならないためにも、ガザの戦闘を止めねばならない。