立ち合いに臨む力士のスタイルはさまざまだ。この人はほぼ表情を変えず淡々として見える。鋭いにらみを利かせることもない。ライバルの豊昇龍や琴桜が鬼の形相で気合を入れる姿とは対照的だ。横綱昇進を確実にした大の里である
▼糸魚川市での中高生時代に相撲の基礎を学び、大学で能力を開花させたが、師匠の影響が大きいのだろう。元稀勢の里の二所ノ関親方は現役時代「抑制の美学」を重んじ、一喜一憂しない平常心を心がけて横綱に上り詰めた
▼かつて記者会見で師匠は、まな弟子について「言われたことを素直にやり続けられるのが強さにつながっている。吸収するのが早く、その能力は他の力士より何十倍も、何百倍もある」と評していた
▼言葉の通り、場所を追うごとに進化がめざましい。圧倒的な馬力を見せつける一方、得意の右差し一辺倒にならず左からの攻めも磨き、安易な引き技も出なくなった。13連勝で優勝を決めたきのうの寄り切りも圧巻だった
▼師匠は中学卒業から15年かけて最高位にたどり着くが、大けがを負い横綱在位12場所のうち皆勤わずか2場所で引退した。その師匠が今もまわしを着け、大の里に何番もの稽古をつけている。託しているものの大きさを思う
▼今場所前、両国国技館には大の里の三つ目の優勝額が掲げられた。母校海洋高の校章をあしらった化粧まわしを着けたものだ。あと何枚の優勝額が飾られることだろう。大器の物語を師弟2代にわたる筋書きで捉えれば、その深みは増す。