膠着(こうちゃく)していた問題に前進の兆しが見えてきた。だが、流動的な要素が多く楽観はできない。気を緩めず着実に交渉し、納得できる決着を目指さなければならない。
トランプ米大統領は交流サイト(SNS)への投稿で日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画について、「両社間で計画されたパートナーシップ(提携)だ」とし、反対から一転して承認する考えを示した。
しかし後日、「米国がコントロールする」とも述べ、具体的な買収の枠組みには言及しなかった。
大型買収計画が発表されて約1年半がたつが、依然として不透明感が残っているといえよう。
トランプ氏の承認発言の背景には、日鉄による投資の大幅増額があるとみられる。SNSでトランプ氏は「少なくとも7万人の雇用と140億ドル(約2兆円)を米国経済にもたらす」と主張した。
大統領就任後に打ち出した高関税政策は、支持拡大につながっていない。そればかりか国債、通貨(ドル)、株式が売られるトリプル安の様相を呈している。トランプ氏が経済手腕を早急に誇示したかったのは間違いない。
USスチールは、生産設備が老朽化し、米国内で需要の高い高級鋼材を独力で供給し続けるのは難しい状態にある。
これに対し、日鉄は電気自動車向けをはじめとした高級鋼材を得意としている。買収計画が両社の利益となるのは明らかだ。
今回の買収計画はそもそも当事者同士が合意した友好的なものである。鉄鋼業は防衛力を支える側面もあるが、日鉄は同盟国、日本の代表的な企業だ。安全保障上のリスクになるとは考え難い。
トランプ氏やバイデン前大統領が買収計画に反対したのは、昨年11月の大統領選を有利に進めるためだった。
選挙に影響力を持つ全米鉄鋼労働組合が「雇用が失われる」として、買収に強く抵抗したからだ。
米国の現、前政権の介入によって、いたずらに時間を空費し、投資額の大幅な引き上げも余儀なくされていることは残念である。
気がかりなのは、トランプ氏が承認発言後、「これは投資であり(日鉄は)部分的に所有権を持つ」とも強調したことだ。
日鉄はUSスチールの全株式を取得する完全子会社化を目指している。今後もトランプ氏の真意を慎重に測らなければならない。
トランプ氏の投稿について、石破茂首相は「米政府の正式な発表を待ちたい」と述べるにとどめ、静観の構えである。
ただ、日鉄からUSスチールへの巨額投資が実現すれば、米国経済への多大な貢献となる。
日米間では米国の高関税政策を巡り、交渉が続いている。
買収計画を含め、両国は公平に交渉を進めてもらいたい。