作品は全て人の背丈ほどある麻の布に、油絵の具で描かれている。背後が透けるほど目の粗い布になぜ? 作者である新潟市秋葉区出身の画家小林憲明さん(51)は言う。「絵が主張しすぎないので、どんな風景にも合う。思いのはかなさも表現できる」
▼新潟市の新津美術館で先週開かれた、その「ダキシメルオモイ」展は、東日本大震災に翻弄(ほんろう)された家族の応援プロジェクトとして13年前から続いている。これまでに抱きしめ合う家族約300組を絵にした
▼母親と子どもの構図が圧倒的に多い。福島の原発事故を受け、子どもの安全を最優先して本県などに自主避難した母子も描いてきた。葛藤やあつれきを越え、故郷の生活をなげうった親の覚悟に、見る側は心を寄せることになる
▼親子の表情から伝わる安心感、慈しみ、喜び、祈り…。「ヘビーな体験をした人ほど笑顔になってほしい」。そんな思いで描くという。抱っこして踏ん張る母親の足元に、たくましさも感じられる
▼小林さんは津波で亡くなった子も、その子の成長後を想定した姿も、親の要望にこたえて描いてきた。写真があれば絵はできるが、制作する前に必ず親子らに会い、暮らしぶりや思い出などに耳を傾ける。8時間かけて傾聴したこともある。受け止めた思いを筆に込める
▼過ぎてしまえば、子どもの成長はあっという間。そのうち身長を越される親もいる。ためらいなく抱きしめられる時期は限られている。まだその時期にある人は、今のうち、惜しみなく。