1世紀前に米国の心理学者が報告した実験という。子どもを班に分け算数の試験を5回する。教師役は答案を返す時、一つの班はできた部分を褒めて、二つ目の班はできなかった点を𠮟る。三つ目の班には何も言わない

▼結果、何も言われなかった班の成績はほぼ変化せず、褒められた班は7割以上伸びた。𠮟られた班は最初は努力して成績が上がるが、やる気が保てず次第に下がった

▼𠮟られ続けて疲弊するのは大人も同じ。内容や言い方が理不尽ならなおさらだ。客が激しく𠮟責(しっせき)するなどのカスタマーハラスメント(カスハラ)は典型例だろう

▼昨年の民間調査では2割の企業が直近1年間にカスハラを受けたとし、国の調査でも自治体職員の35%が過去3年間に被害があったと答えた。精神疾患の発症など深刻な影響も生じている

▼東京都などは条例や指針を設け、カスハラの防止に向けて自治体や市民の責務を記した。本県なども職員向けの対策要綱を設けた。現場には心強い動きだ。ただ、対話する相手に敬意を払うのは当然のことだったはず。ルールの明文化が必要な状況は、少しやるせない

▼近所のスーパーには「お客さまの声」コーナーがある。厳しいクレームが並ぶ中、1通に目が留まった。子どもが店内で水をこぼした際、親切に対応してくれた従業員への感謝が書かれていた。スーパーは投書を社内で共有するという。温かい文面は当の従業員を励まし、周囲の参考にもなるだろう。優しい伝え方でも、きっと人は動く。

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