子どもの頃、家の近くに小さな食料品店があった。お金を払って商品を手にした原体験は、おそらくここにある。お使いにもよくいかされた。夕暮れ時、硬貨を握りしめ走っていった
▼どこの家の子か、店のおじさんもおばさんも知っていた。その晩の献立はおおむねばれていたかもしれない。昭和が終わる頃だろうか、店はひっそり廃業した。通り沿いの服屋や文具店が姿を消したのも間もなくだった
▼そんな風景を見てきたからか、県内の各地域に根を張るローカルスーパーの話題が耳に心地よい。知恵と工夫で個性を磨いた店が、多店舗展開するスーパーに負けじとのれんを守り続けている
▼「それまで価格競争に明け暮れていたが、見ている方向が違うことに気付いた」と、かつて本紙取材に語った店主がいる。仕入れを研究して、ひと味違う品ぞろえに活路を見いだした。街中でもない立地で、遠方からも集客する人気店になった
▼日ごろはちょっとでも安い商品を選ぶとしても、たまには好奇心をくすぐるような買い物がしたいと思うもの。季節感ある郷土料理や風習に寄り添う商品を並べるなど、地域の暮らしに目配りしている店もある
▼デパートにも、チェーンストアにも、コンビニにも、すくいきれない需要があるのだろう。自らの持ち味や存在意義を突き詰めて手を打つことが、いかに大切か。人口減少という難題に向き合うとき、小規模でも消費者に支持されるスーパーがヒントを指し示しているように思えてならない。