戦前に外相となり首相も務めた広田弘毅は、戦争回避に努めながら東京裁判では文官で唯一A級戦犯として死刑判決を受けた。一貫して弁解も自己弁護もせず、処刑された
▼〈風車、風が吹くまで昼寝かな〉。外交官時代に左遷された際に詠んだ句は、欲や利を追わない「自ら計らわぬ」生き方を象徴する。結果として広田には無情な風が吹くことになる
▼風はままならぬもの。昨日閉幕した新潟市南区の白根大凧合戦では、関係者はじっと風を待った。中ノ口川両岸から揚げる凧を上空で絡ませ、迫力の綱引きにつなげるには、川下からの北風が欠かせない。それがなかなか吹かなかった
▼願いが通じたのは4日目の日曜日、午後3時を過ぎていた。凧綱が青空で交錯すると歓声が湧いた。大凧に息が吹き込まれた。最終日も流れを引き継ぎ計21戦を繰り広げた。風に恵まれた昨年はまれに見る61戦が成立したが、一昨年は2戦にとどまった。こればかりは人知の及ばぬところである
▼年に一度きりの晴れ舞台に向け、各町内は前年から準備に取りかかる。凧の部材となる竹を調達し、組み上げ、紙を貼り、絵を描く。24畳大の大凧合わせて約300枚を作り本番に臨む
▼いい風が吹けば渾身(こんしん)の力で凧を操り、期間中に風がなければ、くすぶりを胸に納め1年後を待つ。思い通りにならないものがあることを、誰もが心得ているのだろう。物来たればこれに応じて対処する-。広田弘毅の座右の銘「物来順応」に通じる構えを、そこに感じる。