許しがたい冤罪(えんざい)を招いた大川原化工機を巡る違法捜査では、罪を認めなければ身柄拘束が長引く「人質司法」も問題視された。この人質司法は人権侵害だと国を訴えているのは、東京五輪汚職で贈賄罪に問われた出版大手KADOKAWAの角川歴彦前会長である
▼刑事被告人として無実を主張しながら、国賠訴訟の原告となった。審理は今も続いている。角川被告は手記「人間の証明」で、226日に及んだ勾留中、当時79歳の被告が心臓の持病で倒れても適切な治療が施されなかったとつづる
▼この手記に、拘置所の看守からかけられた言葉が出てくる。〈昔のように入れ墨のやくざのお兄ちゃんばかりでなく、あなたのような一般の人がここへ入ってくるようになったら、拘置所は変わらなきゃいけないんですよ〉
▼リアリティーが増す犯罪白書のデータがある。裁判を終えていない被告とは立場が異なるものの、受刑者を見ると1980年代は4人に1人が暴力団関係者だったが、2023年はほぼ22人に1人となった。全体の高齢者比率は右肩上がりで、中でも女性が増えている
▼極悪非道で粗暴な犯罪者は厳しく懲らしめねばならない、そんな漫画のようなイメージはやや現実と乖離(かいり)する。刑法で定める刑罰が約120年ぶりに改正されたのは、こうした実態も踏まえたものだ
▼社会のさまざまな事象が変わりゆく中、刑事司法がガラパゴス化していい道理はない。死刑の是非、再審制度、取り調べの手法…。課題は山積している。