国際情勢が急速に変化する中で、社会機能を安定させるための対策が急がれるのは当然だ。

 しかし成立した法律には曖昧な部分が多く、民間企業に対する国の介入などに不安が残る。自由な経済活動が妨げられることがないか注視する必要がある。

 国の主導で企業の情報管理を強化する「経済安全保障推進法」が国会で可決、成立した。

 経済安保は、国民の生命や財産を守る安全保障に経済政策や企業活動を結び付ける考え方だ。防衛力を中心とした従来の安保とは別に、経済的な手段を使って社会機能の安定を図る。

 法律は(1)人工知能(AI)など先端技術開発での官民協力(2)重要物資のサプライチェーン(供給網)強化(3)基幹インフラの事前審査(4)特許の非公開-の4本柱だ。

 供給網の強化や物資の備蓄などで国が民間を支援する一方、非公開の特許情報を漏らした場合などに備えた罰則を規定した。

 情報通信など基幹インフラ企業が導入する設備のサイバーセキュリティー体制を事前審査し、必要に応じて設備の変更を勧告、命令することも盛り込んだ。

 気掛かりなのは、法律に明記されず、事後的に決められる内容があまりに多いことだ。

 例えばサプライチェーンの強化では、対象の「特定重要物資」に半導体などが想定されるがまだ決まっていない。指定された物資の関連産業には国が財政支援する。

 基幹インフラの事前審査は、サイバー攻撃などへの備えとして重要なものなのに、どんな機器を審査するかは未定だ。

 こうした約130項目について国は今後、国会審議のいらない政令と省令で正式に決めるという。

 国の裁量による部分が大きいため、恣意(しい)的な選定を防ぐ明確なルールづくりが不可欠だ。

 事前審査については、国の介入が強まり過ぎ、民間企業の設備投資に影響が生じないように、注意を払わなければならない。

 法制化作業は当初、ハイテク分野で台頭する中国を念頭に置いていたが、ロシアのウクライナ侵攻で事態が変わった。

 侵攻後、サイバー攻撃が全世界で増加しており、ウクライナではロシア系ハッカー集団が政府機関を狙ったサイバー攻撃を多数仕掛けていたことが判明した。

 日本でもトヨタ自動車が仕入れ先企業の受けた攻撃で一時、工場の稼働停止に追い込まれるなど、リスクが一段と高まっている。

 国会では野党第1党の立憲民主党が経済安保への関心の高まりを考慮して賛成に回ったこともあって論戦は失速し、審議が尽くされたとは言い難い。

 運用に当たって国会は、民間に不利益や不公平は生じていないか十分に目配りし、政府への監視機能を働かせてもらいたい。