漢字遊びの古川柳がある。〈同じ字を雨雨雨と雨て読み〉。どう読むのか。ヒントは春雨(ハルサメ)、五月雨(サミダレ)、時雨(シグレ)である。いわく、雨という字の異なる読み方をつなげて〈同じ字をアメ・サメ・ダレとグレて読み〉となる
▼読みの難しさにグレてしまったという戯(ざ)れ言だろうか。雨は「ウ」とも「アマ」とも読む。その多様さに日本語を学ぶ外国人は戸惑うかもしれないが、語感や言葉が持つ風情は大切にしたい
▼時に雨には色も付く。白雨は明るい空から降るにわか雨で、黒雨は空を暗くするほどの大雨を指す。緑雨、翠雨はまぶしい新緑の時季。春の花々に降り注ぐ雨は紅雨と称する
▼降る音が心に響くときもある。小林麻美さんが歌う「雨音はショパンの調べ」は松任谷由実さんが詞を付けた。詩人の八木重吉は「雨」と題し〈あのおとのようにそっと世のためにはたらいていこう〉とうたった。コツコツ地道に働く姿が浮かぶ
▼嗅覚も刺激する。〈藤の花雨の匂ひの客迎ふ〉と新潟市江南区の北方文化博物館の句碑に刻まれる。俳人でもある角川春樹さんが詠んだ。ちなみに学術的にペトリコールと呼ばれる雨の匂いがある。地面の植物性の油分などが降り始めの雨によって拡散されて生じるという
▼雨に降られて日々に潤いと深みが増す。陽の光ばかりでは少し疲れる。今朝の県内は雨空だろうか。梅雨に入り、豪雨災害への備えは怠れない。しっとり。しとしと。その程度に降ってくれたらいいのだが。