大正末期の1920年代、小作人の地位向上や小作料の減免を求め、旧木崎村(現新潟市北区)で起きた小作争議は全国に報じられ、各地に影響を与えた。日本の代表的な小作争議に数えられる
▼その木崎争議をテーマにした最初の小説とみられる草稿が見つかった。農民文学作家、犬田卯(しげる)が32~35年ごろに書いたとみられる未発表の長編「木崎村」だ。犬田は茨城県の半小作農家に生まれ、文学を通した農民の解放を目指した
▼「木崎村」について論文を発表した文教大の江種満子名誉教授は、犬田は小作人が人間としてどれだけ惨めかをかみしめ、生涯屈辱を抱え続けたと指摘。この作品を通じて当時の社会構造を明らかにしようとしたとみる
▼作品には「田を愛撫(あいぶ)する」という独特の表現が出てくる。江種さんは、この地の小作人が、湿地帯を水田にした先祖の計り知れない労苦を知るからこその表現であり、だからこそ土地を「自分のものと思っていた」と強調する
▼江種さんはまた、当時と今の農業へのまなざしに共通点をみる。「消費者は米が高くて困ると言うだけで、作るのにかかる労力や農家が労働に見合った対価を得られていないことに向き合っていない」と疑問を呈する
▼〈値上げして茶碗一杯五十円いのち支える米の軽さよ〉。本紙佐渡面「島の文芸」から。大正期、米価高騰に苦しむ大衆が起こした米騒動は社会を変革する端緒になった。「令和の米騒動」も農業を取り巻く課題を再考する機会にしなければならない。