小欄で先ごろ、糸魚川市出身の批評家、若松英輔さんの著書「西田幾多郎 善の研究」を紹介した後、新潟市西区の95歳の女性から、はがきをいただいた

▼自身も若松さんの本を読んでおり、「本県出身とは知っていたが、糸魚川までは知らなかった。同郷の文人、相馬御風や歌人、松倉米吉を思い出した」という

▼寡聞にして米吉を存じ上げず過去の記事を調べてみた。1895(明治28)年生まれ。幼くして父を亡くし、再婚した母を追って上京した。メッキ工場、クリーニング店、木工…。職を転々としながら、歌誌「アララギ」に作品を発表した。結核のため、23歳の若さで亡くなった

▼米吉はおよそ400首の短歌を残した。〈職を持たぬこの身さびしくきさらぎの裸木ならぶ街を来にけり〉葉を落とした木々の姿が無職の心細さを表す。〈菓子入にと求めておきし瀬戸の壺になかばばかりまで吾が血たまれる〉重い病気に侵された体と心の痛みがにじみ出ている

▼新聞に載った米吉の写真は、カンカン帽をかぶり、まだわずかにあどけなさを残している。もし30代、40代と年を重ねていたら、どんな歌の境地を開いていただろう。米吉より12歳年上の御風はその死を悼み〈いくそたび読みかえしても悲しきはわが米吉の歌にぞありける〉と詠んだ

▼冒頭のはがきには「新聞を読むと新しい発見があるので楽しみにしている」とつづられていた。今回はこちらが発見をさせてもらった。読者というよりも、人生の大先輩に感謝したい。

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