犠牲者をこれ以上出さないために、退避はやむを得ない判断だったのだろう。多くの市民を巻き添えにしたロシア軍の残虐行為を、改めて強く非難する。

 戦況は引き続き予断を許さない。懸念されるのは、戦闘のさらなる長期化だ。

 ウクライナ南東部の激戦地マリウポリで、アゾフスターリ製鉄所を最後の拠点として抵抗していたウクライナ部隊が「降伏した」とロシア国防省が明らかにした。

 ウクライナ軍は製鉄所の「戦闘任務終了」を表明し、兵士らはロシア側支配地域に「退避した」としている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は「つらい一日だ。ウクライナの英雄たちは生きなければならない」と動画で述べた。兵士らを生存させるための判断だとして国民に理解を求めたものといえる。

 製鉄所がロシア軍に掌握されるのはマリウポリ陥落を意味し、ロシアにとって大きな戦果となる。

 マリウポリは、ロシア側が早期制圧を目指すドネツク州と、2014年に強制編入した南部クリミア半島を結ぶ戦略的要衝に位置するからだ。

 ロシア軍は2月末から約80日間、マリウポリの包囲戦を展開した。激戦の中、明らかになったのはロシア側の非道ぶりだ。

 市街の建物は無差別の爆撃を受け、廃虚と化した。劇場に避難していた女性や子どもを含む市民が命を奪われた。民間人の犠牲者は計2万人を超えるとみられる。

 ウクライナ軍が降伏する前日には、ロシア軍が初めて焼夷(しょうい)弾か白リン弾を使用したとマリウポリ市幹部が指摘し、非人道的兵器が使用されたと強く非難した。

 無差別に殺傷する兵器の使用は重大な戦争犯罪といえる。

 製鉄所から退避したウクライナ兵士らの身柄も気掛かりだ。

 兵士の中には、ウクライナ内務省系軍事組織「アゾフ連隊」のメンバーが含まれる。ロシアはアゾフ連隊を「反ロシアのネオナチ集団」として敵視している。

 ウクライナ側は、ロシア側にロシア兵捕虜との交換を求めている。人道的に対処すべきだ。

 ロシアは今後、マリウポリを制圧した部隊などを再編し、ドネツク州北西部の戦闘の最前線に増派することが可能となる。

 しかしウクライナ軍の激しい抗戦に苦戦を強いられ、部隊は疲弊している。一部地域では撤退を余儀なくされている。

 停戦交渉を巡っては、ロシア側が「ウクライナ側が停戦交渉を打ち切った」と主張した。ウクライナ側も中断を認めた。

 すべての責任は、侵攻をやめようとしないロシアのプーチン大統領にある。

 国際社会はウクライナをしっかり後押しし、停戦への糸口を探ってもらいたい。