負けん気が強く快活な女性のことを、高知では「はちきん」という。漫画家のやなせたかしさんと、妻の暢(のぶ)さんをモデルにしたNHKの連続テレビ小説「あんぱん」では、暢さん役の主人公がしばしば「はちきんおのぶ」と呼ばれる

▼はちきんといえば、高知では坂本龍馬の姉、乙女が代表格だろう。文武両道を極めた乙女は、幼少期に泣き虫でからかわれた龍馬を、母親代わりとなって厳しく訓育した

▼その乙女をしのぐはちきんの存在を、仕事で高知を訪ねて知った。名を楠瀬喜多という。言葉は悪いが、ご当地では「民権ばあさん」と呼ばれている。この喜多さん、日本女性として初めて女性参政権を要求した人物だという

▼38歳で夫に先立たれた喜多は、「戸主」として地租や税を納めてきたが、女性であることを理由に選挙人から除外された。これを不服に思い、選挙権を与えないのなら、税を納める義務はないと、滞納する作戦に出た

▼再三督促され、県に伺いを立てた。「権利と義務は両立するはず」「議員を選ぶ権利もないのに納税の義務だけを促すのは、公の公正な取り扱いとも思われない」(公文豪著「民権ばあさん 楠瀬喜多小論」)。実に筋が通っている。日本で女性に参政権が認められる70年近くも前、1878(明治11)年の話だ

▼忖度(そんたく)せず、言うべきは言い、行動する。喜多の姿勢は政治家にこそ求めたい。参院選が始まる。選挙の時だけ、口先だけの言説ではないか、候補者をしかと見極め権利を行使したい。

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