県北の森に足を踏み入れた時のこと。「キョロロロロロロ…」。特徴のある鳴き声が聞こえてきた。発したのは森にすむカワセミの仲間アカショウビンである。澄みわたる旋律のような声に、しばし蒸し暑さを忘れた
▼全身が赤褐色で、大きなくちばしは赤がとりわけ鮮やか。夏鳥として日本各地に渡ってきて繁殖するという。現在は十日町市になった旧松之山町は「町の鳥」に指定していた。地元の里山科学館「森の学校キョロロ」の館名は、この鳥に由来する
▼くだんの森では鳴き声が繰り返し響いていた。それほど遠くない場所にいるらしい。目を凝らしたが、声の主を見つけることはできなかった。実際の姿を観察することが難しいため「幻の鳥」と呼ばれることもあるという
▼声はすれども姿は…というやつだ。ふと連想した。声や情報はひんぱんに届くけれど、発信元の実態が見えにくい。そういう点ではSNSと似た部分がある。鳥の声にはうそ偽りはない一方、SNSの情報の中にはデマや悪意のある内容があり得るのが厄介だ
▼近頃は、政治や選挙の世界で飛躍的に存在感を増している。組織や知名度、資金力がなくても、多くの人に主張や情報を届けることができる。しかし誤った情報が広がり、それが選挙に反映される危うさもはらむ
▼参院選が選挙戦に入った。候補者だけでなく、SNSの声の主が信用できるかどうかを見極める必要もあるだろう。森に響いたあの調べのように、濁りのない声ばかりならいいのだが。