信濃川の土手沿いを通ると、草刈り機を手にした人たちが雑草を刈り取っていた。回転刃が草を蹴散らしている。数日たってまた通ると、きれいになった土手に黄色い花がいくつか揺れていた
▼小さくかわいい花だ。愛らしさのあまり刈り取るのをためらったろうか。地表に広がった葉はタンポポのよう。草丈はひょろりと高い。ありふれた雑草なのかもしれないが、何という名前なのだろう
▼夏の黄色い花を調べるとオニタビラコ(鬼田平子)が候補に挙がる。オニは大きいものを指すらしい。しかしオニの上に、小さいことを表すコを付けたコオニタビラコという存在も浮かんでくるから植物の世界は不思議だ
▼もはや小さいのか大きいのか判断できない。命名者にからかわれているかのようだ。ラテン語で表される植物の学名には世界共通の厳格なルールがあると聞くが、和名となるとそうした決まりは探しても見当たらない
▼例えばヒマワリは和名。日差しの日の字とゆかりがある。園芸品種のミヤコワスレも和名で、佐渡に配流となった順徳上皇の心を癒やしたとの故事が語られる。そのエピソードと紫の花が相まって優美この上ない
▼冒頭に挙げた土手の黄色い花を調べても、邪魔者としてしか出てこない。どうやらオニタビラコでなく、ブタナ(豚菜)が正解だろうか。それにしても野の花とブタとどんな関係があるのだろう。思わず調べたくなるユニークな和名は、目立たぬ草に光が当たるよう願う命名者の親心かもしれない。