北海道・知床半島沖で観光船が沈没した事故は、先月23日の発生から間もなく1カ月となる。

 乗客乗員26人のうち、発見された半数余りの乗客は、いずれも死亡が確認され、残る行方不明者の捜索が続いている。

 海上保安庁から依頼された専門業者の潜水士が海底に沈没した船の中を捜索したが、不明者は発見されなかった。

 ロシアが実効支配する北方領土・国後島では遺体が見つかった。乗客乗員の可能性がある。

 国などは、引き続き不明者の発見に力を尽くしてほしい。船の引き揚げも着実に進め、事故原因の解明につなげてもらいたい。

 この間、次々と明らかになったのは、観光船運航会社のずさんな安全管理だ。二度と痛ましい事故が起きないよう、問題点や課題を徹底検証し、実効性ある対策に生かさなければならない。

 運航会社の社長は昨年3月、自らを「運航管理者」に選任したと国に届け出た際、4年半にわたり会社で運航管理補助の経験があると申告していた。

 しかし会社関係者は「社長が事務所にいることはなく、補助は全くやっていない」と証言する。

 船と陸上との通信手段としていた携帯電話は、航路の大半で通信エリア外だった。船舶安全法に違反してアマチュア無線を日常的に使っていたことも分かっている。

 会社が国に提出した安全管理規程では、航行中に波高1メートル以上が予想される場合は出航を中止するなどと定めていたが、こうした規程の多くは無視されていた。

 人の命を預かる意識があまりになさ過ぎる。ずさんな運航管理を続け、安全を軽視してきた姿勢に、改めて強い憤りを覚える。

 第1管区海上保安本部は社長を業務上過失致死の疑いで調べている。捜査を通し事故の全容を明らかにしなければならない。

 国の監査がきちんと果たせなかったことも見過ごせない。

 この船が昨年2件の事故を起こした際、国土交通省は運航会社を監査しながら、運航実態を見抜けなかった。

 社長を運航管理者として認めた際も、書面上の確認だけで済ませ、申告の裏付けを取らなかったのではないか。

 国には、法令違反を繰り返す悪質業者を発見、是正し、重大事故の発生を未然に防ぐ責任がある。それを軽視してもらっては困る。

 国交省は監査に反省すべき点があったことを認め、事業者の法的規制や国の監査を強化する方針だ。速やかに再発防止策をまとめ、事業者への安全管理を徹底しなければならない。

 今回の事故では救助の初動対応の遅れも指摘された。国は高性能の船舶や自衛隊派遣要請の迅速化に向け調整しているという。救助体制の強化も急ぐ必要がある。