一方的に圧力をかけ、譲歩を引き出そうという狙いは明らかである。これまで通り、粘り強く打開策を探るべきだ。
トランプ米大統領は7日、自身の交流サイト(SNS)で石破茂首相に宛てた書簡を公開し「8月1日から米国が輸入するあらゆる日本の製品に25%の関税をかける」とした。4月に発表した相互関税を1%分上回る。
相互関税の上乗せ分の停止期限を今月9日から8月1日に延長する大統領令にも署名した。
書簡では、日本の関税や貿易障壁を是正するために必要な措置だと強調した。日米関係については「残念ながら全く相互的ではない」と指摘した。
トランプ氏は6月下旬以降、自動車やコメの日本の輸入が少ないと訴えるなど、態度を硬化させていた。迅速に合意できるとの目算が外れ、交渉が難航しているためとの見方がある。
日本以外の13カ国にも25~40%の関税を課すと公表した。4月発表の相互関税から税率を引き下げた国が多い中、同盟国でありながら、日本は引き上げた。相当不満を募らせているのだろう。
期限を延長せず、一時停止していた高関税を復活させる選択肢もあったはずだが、交渉を通じ有利な条件を引き出す方が得策と判断したとみられる。
4月の相互関税発表直後に起きたような株式市場の大規模な混乱を回避したいとの思惑も透ける。
注目したいのは、米国はまだ関税率を変更する可能性があるということだ。
書簡の公開を受け、石破首相は「誠に遺憾だ」としながらも「日本側の対応次第では内容を見直し得るとして、協議を速やかに進めていきたいとの提案を受けている」と述べた。
米国は、日本の市場開放や、非関税障壁の撤廃を想定しているようだ。日本の国益を守り、産業・雇用への影響を最小限に抑える合意を早急に目指したい。
日本国内では、景気後退が顕在化しつつある。
内閣府は7日発表した5月の景気動向指数で、基調判断を景気後退の可能性が高いことを示す「悪化」に引き下げた。悪化の表現は新型コロナウイルスの感染禍だった2020年7月以来だ。米国向け輸出の減少などを反映した。
米関税政策がどう景気に影響したか見極めは難しい。しかし、関税交渉が長引けば、先行きの不透明感が増す。
米国は、米株式市場の動きに注意を払うべきだ。トランプ氏が書簡を公表した7日は売り注文が膨らみ、ほぼ全面安となった。
関税強化が米経済に打撃を与えるとの見方が広がり、投資家心理が悪化したためだ。高関税が必ずしも米国の経済に資するものでないことは明白である。